深夜バス

終電を逃したときに、ヤサに戻ることのできる最後の切り札である深夜バスにひさびさに乗車。
この運賃はタクシーの一割程度であり、午前様には密かに重宝がられているようである。
ただし、所要時間は普通に電車で帰るときの三倍ほどで、ヤサに着くころにはまさに「草木も眠る丑三つ時」を過ぎてしまうので、翌日が休日でもないと帰宅できても寝る時間が確保できない。

終電車が出たあとは、どこのターミナル駅でもタクシー乗り場には長蛇の列ができているのが常である。
それを横目にこのバスの発車場に向かう気分は、ちょっとした優越感にも似たものがあってたしかに便利。

その一方で、この車内にはまさに「負の要素」が充満していて、それを載せて走っているバスであるとも云える。
もちろん電車にも酔っぱらいの吐く炎の臭い息は充満しているが、バスはその箱が小さい分、その濃度は高い。
まともに目を開けて座っているヤツなどほとんどおらず、ほとんどがそうとう呑んでいる様子。
バスが進むにつれ、途中で停車する降車場で、おぼつかない足取りの乗客がぽつりぽつりと降りていく。
二人掛けのシートに残された、さらに先へ行くと思しきスーツ姿の半死状態サラリーマンが、まるで毒でももられたかのようにぐったりと横たわっていのがそこここに見られる。
人間とは、こうも無防備に愚かになれるのか、と思わず目を覆いたくなるような惨状である。

私もそんな連中とさほど変わらない様子で、正気を保つのがそうとう怪しいなか、どうやら無事にヤサ近くの降車場で覚醒して無事に帰宅。

だれが起こしてくれるわけでもないので、ぐっすり堕ちてしまうとそのまま終点の車庫まで連れて行かれることになりかねず、そんな状況を想像しただけでも末恐ろしい。